第六回:心をつかむ鍵 ~いま、生き残るための営業術(輸送経済新聞 2021年2月23日掲載記事)
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こんにちは。高橋です。
全12回にわたり、輸送経済新聞の「まなびカフェ」に連載された「いま、生き残るための営業術」について加筆修正を加えた特別版を公開しており、本日は第6回目です。
前回は、「10年後になくなる仕事としてランキング上位の営業職」は、本当になくなるのかということを軸に、インサイトセールスの可能性を探りました。
今回は、最新の営業手法であるインサイトセールスを用いて、どのようにお客様の心をつかんでいくのかということを考えてみます。
まず、皆さんに一つの質問をさせてください。
皆さんにとって、提案書を作成する際に一番大切なことは何でしょうか。
もし、皆さんの中で「提案書に一番大切なのはロジックだ!」と考えてられている方がいらっしゃれば、本記事はとても参考になるかもしれません。
提案に負ける理由は「ロジカル」にない
提案書を書く際には、ロジックは大切です。これは間違いない事実だと思います。
しかし、ロジカルな提案書だけでは、なかなか競合と差別化できず、結果として価格競争や条件競争に巻き込まれ、場合によっては失注してしまうこともあると思います。
ロジックの欠点
では、なぜ提案書でロジックを一番大切にすると、このように価格競争や条件競争に巻き込まれる可能性が高いのでしょうか。その答えは、ロジックの欠点にあります。
ロジックの良さとは、誰が見ても納得が高いような仕立てになることです。
社内で何かを報告する際や、お客様に提案をする際にも有効です。しかし、ここに大きな落とし穴があります。誰が見ても納得できる内容というのは、裏を返せば誰が考えても同じ考えになるということです。
これは、つまり提案書をロジックだけで作成したら、競合他社と似たようなものができあがるということです。
よくある事例
皆さんにも、このようなご経験はありませんか。お客様の課題をしっかりと聞き出し、その課題に対する解決策を提案したにも関わらず、複数社のコンペになってしまう…、そして価格競争や条件競争に巻き込まれてしまう…。
私は、このようなご経験をされている営業担当者をたくさん見てきましたし、実際に私自身も同様の経験があります。
私たちは、このような事例を繰り返さないためにも、営業手法の引き出しを増やす必要があるのです。
提案書の比較からわかる「感情」
では、実際に簡易的な提案書を元にして考えてみましょう。
提案書Aと提案書B
こちらの提案書Aと提案書Bは、全く同じ営業が全く同じお客様に提案したものと捉えてみてください。皆さんは、どちらの提案書に、心惹かれるでしょうか。
提案書Aは、「貴社の物流業務の人・保管場所・管理過程の課題を解決させてください」というように、お客様の課題を解決する営業手法です。
一方で、提案書Bは「貴社の物流業務の支援を通じて『暮らしの中に〝うれしい〟を届ける』お手伝いをさせてください」というように、お客様のビジョンの実現を打ち出しています。
提案書A、Bの比較を過去、数千人の方に実施いただきまいたが、実に90%以上の方が「提案書B」を選びます。この結果が示すことは何でしょうか。
「ビジョン」と「未来創造」
人は何か意思決定をする際には、必ず「感情」が入ります。入札は例外ですが、多くの企業が何かを購買するときには、必ずその決定の要因に「感情」が含まれているのです。
営業担当者は「ビジョン」を押さえる
お客様の「感情」を動かすために、営業に求められることは、お客様のありたい姿やビジョンを明確にして、それに向けて伴走することに他なりません。
これこそが、「インサイトセールス」と呼ばれているものです。
提案は「未来創造」をするものだ
インサイトセールスとは、お客様の課題を整理して、それに対して解決策を提案するというものではありません。提案を通して、お客様とともに「より良い未来を創造していくこと」です。
そのためには、3つのことが大切になります。
その1:「大切にしていること」を徹底的に傾聴
まずは、お客様の「理念」や「ビジョン」などを徹底的に聞き出し、お客様が「大切にしていること」は何かを理解しましょう。
なぜならば、人が意思決定をする際には、「大切にしていること」、つまり価値観を元にしているからです。
その2:抽象的な話を徐々に具体化
「理念」や「ビジョン」は抽象度の高い話になりがちです。
しかし、こういった話を聞いている際には、自社の具体的な商品やサービスの話をすべきではありません。
抽象的な話をある程度聞いてから、徐々に話を具体化させていきましょう。
「その理念を実現するには、これをやりましょう」というように、「理念」や「ビジョン」に紐づけて具体化させていくイメージです。これこそが、未来創造になりえます。
その3:お客様と共に考えるスタンス
「理念」や「ビジョン」を実現するためのアイデアは、無限に存在します。これらのアイデアは、営業担当者だけで考えるものではありません。
お客様と共に、一緒に考え、実行してみるというスタンスも大切なのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、ロジックで作成する提案書の限界と、インサイトセールスという営業手法でいかにお客様の心をつかむのかということを考えてみました。
お客様の「理念」や「ビジョン」を聞き出すことや、それに対して具体的なアイデアを創出することは決して簡単なことではありません。
しかし、難しいからこそ、多くの営業はこれらを敬遠し、自社の商品やサービスの提案にフォーカスします。ただ、残念ながらこのような営業はAIに代替えされてしまうでしょう。
インサイトセールスを身につけ、お客様の未来を共に創造することこそ、これからを生き抜く営業なのです。
次回は、「経営層との対話法」と題して、お客様の経営層から、いかに「理念」や「ビジョン」を聞き出すかということを考えてみます。
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高橋 研
株式会社アルヴァスデザイン 代表取締役 CVO
早稲田大学大学院理工学研究科終了後、株式会社ファンケルに入社。
その後、30歳を節目に営業の世界に飛び込み、多くの会社の教育支援に携わる。
2013年株式会社アルヴァスデザイン設立。2018年「実践!インサイトセールス(プレジデント社)」出版。